異業種5S

ある日曜日の夕方。
次男とカミさんは、野球部の集まりで外食。珍しく僕と長男が、家にふたりきり。どうするか?と悩んだ挙げ句、「美味しいとんかつでも食いに行こう!」と、目黒の「とんき」へ。

全国に暖簾分けの店をもつ「とんき」の総本山。前回の来店から10年近く経っているだろうか。元々、混んでいるのは覚悟の上だったが、日曜の19時は余計に混む時間帯なのだろう。店内は1階2階とも満席で、1階の待ち席、座っている人がざっと30人、立って待っている人が10人で、テーブルのある2階も待ち人だらけだったので、合計で70〜80人が待ってることになる。さすが名店である。

店に入るなり、カウンターの向こうにいる、品の良さそうなオジさまに、オーダーを尋ねられ、ヒレカツ定食を2つ頼んだ。実は、このオジさま、かなりキレ者であることが、徐々に判明する。

待ち席は、空いているところに座るシステムで、順番めちゃくちゃ。でも、さっきのオジさまの頭の中に、全ての情報は入っていて、順番通りにお客さんを案内する。待つこと約20分。オジさまからのアイコンタクトをもらった後、指差されたカウンター席に、息子とふたりで座る。

そこで見た景色が、これだ。

テキパキと働くスタッフの中央で、ナイフを入れるメインシェフ。周囲全面が待ち席で、階段にも立って待つ人が見える。

テキパキと働くスタッフの中央で、ナイフを入れるメインシェフ。周囲全面が待ち席で、階段にも立って待つ人が見える。

僕は感動した。

ちょっと前に、高級レストランでは、オープンキッチンがトレンドだったことがある。この店のレイアウトが、1939年の創業当時のままだとすると、時代の超最先端を行ってたこになる。油を使う揚げ物の店とは思えない清潔さ。檜だと思われる床は、ゴミはもちろん、油シミひとつない。圧巻だ。

オープンキッチンには10名程のスタッフがてきぱきと働いており、調理担当、おかわり担当(ご飯、豚汁、キャベツすべてフリー)、食器下げ担当と、先ほどのオーダーを受け案内をするオジさまなど、ほぼ完全分業制。私語も、無駄な動きもなく、仕事の質が高いように見える。中でも注目は、キッチン中央で、とんかつをカットする、かなりお歳を召したシェフだ。

僕の想像ではあるが、おそらくこのシェフが、総司令官だと思われる。メインの商材であるとんかつに、ナイフを入れ、色、やわらかさ、大きさ、温度、といった揚げ加減すべてをチェックして、皿に盛りつけているのであろう。そして、キッチンの真ん中にいることで、店内のすべてを把握し、品質をトータルにコントロールしているのだと感じた。

着席後、15分ほどして、ヒレカツ定食がサーブされる。お味に関しては、食べログのレビューにお任せするが、ここまで来ると、美味しくない訳がない。マズいものが出てきたら、逆に驚く。それくらい全てが機能的で、理にかなっている。

まったく関係ないと思われるかもしれないが、僕らの製造業も同じだ。工場を見れば、品質の善し悪しはほぼ察しがつく。ごく稀に、汚い工場が良い製品を作ることもあるが、その逆に、整理整頓が行き届き、社員の躾がなされたキレイで機能的な工場からは、品質の悪いものが出来得ない。だから、お客様は工場監査を行う。良品を作る仕組と工程を求められているのである。

整理整頓、清掃が徹底され、役割分担が明確な現場。我々の工場の理想ではないか。美味しいものを食べさせてもらえる上に、工場運営の勉強までできてしまう、お得感満載の「とんき」。長男曰く「こんな美味しいとんかつ、初めて食べた」とのことで、次の”工場見学”は、そんなに先のことにはならなそうだ。

異業種5S」への2件のフィードバック

  1. こんにちは。
    楽しい夕食になりましたね。
    僕もトンカツが好きで富貴に行ったことは有りますが、こんな大きくて綺麗な所は有りませんでした。
    この店は老舗なんでしょうか?ここで修行を積んだ人がユビキタスの如く至る所で店を構えているのでしょうか。
    それから、”まとめ”決まっていますね。

    • 長井様
      コメントありがとうございます。まとめも褒めていただき、光栄です。
      あそこまで「見える化」が進んだレストランはないですね。
      昭和14年創業ということなので、老舗と言えるでしょう。創業者が、暖簾分けを許すというか、独立を勧める方だったのではないでしょうか、名前が違っても、全国にお店があるようです。
      最近サボってますが、また書きます。

長井 清武 への返信 コメントをキャンセル